僕は都内にある美術専門学校の1年で、テニス部の合宿で軽井沢に来ていました。

僕たちはテニスコートが近くにある小さな民宿に泊まっていました。

全員で20人くらいの部員がいたので、その民宿は貸切状態でした。
合宿が始まって3日ほど経ったある日、休息をかねて夕方から有志を募り、麻雀大会をすることになりました。

1年の男子が使っていた2階の2部屋を間仕切りのふすまを開け放ってつなげ、そこに10人ほどの部員が集まり、深夜まで白熱した勝負が続けられました。

麻雀がさほど好きではなかった僕はすっかり眠くなってしまい、先に寝ることにしました。

しかし僕の部屋は他の連中に占領されていたので、仕方なく麻雀卓からなるべく離れた部屋の一角に、ひとり分の布団を敷いて眠ることにしました。

話し声やパイをかき混ぜる音が気になりましたが、それでも僕はいつの間にか眠りかけていました。

ふと、誰かが布団をめくって、僕の背中の後ろに滑り込んできました。

はじめは、誰かが妙ないたずらっ気を起こしたのだと思い、眠かった僕は相手にせず目を閉じたままでいました。

しかし、入り込んできた奴は、僕の背中にべったりと身を寄せてきます。

「暑苦しいからいい加減にしろよ」

そういいながら寝返りをうち、僕はそいつのほうへ向き直って目を開けました。

その瞬間、僕は思わず息を飲みました。

真っ赤に充血した目がぎょろりと僕をにらみつけていたのです。

恐ろしいのは目だけでなく、その相手の顔は一面に焼けただれたように赤黒く、水ぶくれのできた表皮で覆われていたのです。

マツゲも眉毛もなく、その顔面は崩れ果てていました。

僕は金縛りにかかったように体が動かず目もつぶれず、叫びたくとも声が出ません。

相手はそのただれた顔を僕の頬に押し付けています。

(誰か助けてくれ!)

僕は絶望の淵をさまよいつづけました。

「俺も寝たいから、そろそろ起きて代わってくれよ」

先輩のその言葉で金縛りがとけ、僕はすごい勢いで飛び起きました。

あまりの勢いに他の連中もいっせいに僕のほうに目を向けました。

僕は動揺のあまり言葉につまりながら、今の出来事を話しましたが、みんなニヤニヤ笑いを浮かべるだけです。

そのうち、仲間の一人が疑わしそうに布団のほうへ歩み寄り、掛け布団をめくりました。

そして次の瞬間、彼は真っ青な顔で振り向いたのです。

「みんな、これ見ろよ!」

彼が指し示したシーツには、血膿のような赤黄色いシミがべったりとついていたのです。

翌朝、民宿の主人に昨日の出来事を話してみましたが、
「そんなこと、今まで起きたことないですねえ」と言われ、謎は解けませんでした。

数日後、僕らは合宿の日程を終えて宿を去りました。

あの民宿には絶対、なにかある。

翌年から合宿先は清里に変わりました。