俺が振り返って動き出しても、その顔はうろたえる様子もなくそのままトイレの中を必死でのぞいているようだった。
その顔はガラスに顔をべったりとくっつけているのか、鼻や頬が押し付けられて平べったくなっていた。

ガラスにぴったりと張り付いているので、異様に大きな顔に見えた

太った男の顔のようにも見えた。

夜9時ごろ、自宅のトイレで大をしていたときのことだ。

ふっと横の窓を見上げると、変な顔があった。

その窓は、家の外の路地に面していた。

(のぞきか…?)

俺には高校生の姉がいるので、姉目当てにトイレをのぞいたのかもしれない。

でも窓はすりガラスで、中に入っている人間が男なのか女なのかよくわからないはず。

(だから、あんなにぴったり顔をつけてるのか)

トイレの外に出てから、
(しかしこのままにしといたら姉貴がかわいそうだなあ)

と思い、どんな奴か見てやろうと外に出た。

路地に出てトイレの窓を見ると、人影はない。

そりゃもう、逃げてるよな。

ちょっと苦笑しかけて、すぐにあることに気づいた。

トイレの窓の外枠には防犯用のステンレスの格子が取り付けられている。

格子の間隔は10センチ。窓ガラスとの距離は5センチ。

そのわずかなすき間からどうしてあんな大きな顔が入るんだ!?

人間じゃなかったのか!

俺はあわてて家の中に戻り、頭から布団をかぶった。