女の子は両親の仕事の都合で遠くへ引越すことになった。

引っ越すときに、子どもの頃から大切にしていたリカちゃん人形を手放さなければならなくなった。

泣く泣くリカちゃん人形を捨てて、女の子は新しい街へ移り住んだ。
やがて新しい家や学校にも慣れた。

ある日の夕方、電話のベルが鳴り、女の子が電話に出た。

女の子の両親は共働きで、家には女の子しかいなかった。

「私、リカちゃん。いま神奈川にいるの。これからあなたのところに帰るわ」

電話の相手はまるでロボットのような声をしていた。

神奈川とは女の子が引っ越す前に住んでいた場所である。

それからしばらくたつとまた電話が鳴った。

「私、リカちゃん。いま大船にいるの。」

大船とは女の子が現在住んでいる家の最寄り駅である。

女の子は怖くなって電話を切ったが、すぐまた電話が鳴った。

「私、リカちゃん。いまあなたの家の前にいるの」

「あなた誰なの?」

女の子がそう言うと、電話は切れた。両親はまだ帰ってこない。

女の子は怯えながらカーテンを少し開いて外を見た。

人影はなくホッと安心した途端、また電話が鳴った。

「私、リカちゃん。今あなたのうしろにいるの」