「雰囲気出てるねぇ。」

車は猪苗代湖の横道を通り、地図を見ながら横向ロッジを目指して車を走らせる。

山奥に入ると周りはどんどん暗くなり、外灯すらなくなった。
道を進めること10分近く。

温泉施設みたいな大きな建物が、闇よりも黒くゆっくりと輪郭をおびていく。

路肩に車を停め、先輩と友人の3人は懐中電灯片手に車を降りた。

「思ってたよりでかいな。3手に分かれて散策しようぜ。」
と先輩。

「それじゃあ20分後にココ集合ね。写真撮っといてね。」

「え~あんまり気が進まないなあ…。」

怖いもの知らずの先輩は適当に中を歩き回り、バシバシ写真を撮っている。

建物の内部は確かに不気味だったが、特に何の変化も起こらず入口に戻ってきてしまった。

他2人もそれぞれ戻ってきたが、怖い体験はしていない様子。

車に戻ってデジカメを確認したが、心霊写真は1枚もなし。

「たいしたことなかったな。」

自宅に戻った先輩は、このまま寝るのもなぁと思って彼女を呼ぶことにした。

「来る途中コンビニで酒でも買ってきてくれ。」

彼女に電話でお願いして、自分は台所でつまみの用意をした。

しばらくするとチャイムが鳴った。

「早いな。」

ドアを開けると彼女は手ぶら。

「え?酒は?」

「あ、ごめん、急いで来たから忘れちゃった。」

「それじゃうちにあるビールでも飲もう。」

しばらくすると、またチャイムが鳴った。

「こんな遅い時間に怖くない?出なくていいんじゃない?」

彼女が言った。

ピンポーン。ピンポーンピンポーン。ピンポーンピンポーン。

しつこくチャイムが鳴る。

「しつこいなー。出てみる。」

「気をつけて。」

先輩は玄関の前で「どちら様ですか?」と尋ねた。

その瞬間ガチャリと鍵があき、ドアが勢いよく開いた。

なんと、玄関の前にはさっきまでリビングにいたはずの彼女がいたのだ。

「何でここにいるの?」

「何いってんの?電話で呼んだじゃん。お酒も買ってきたよ!何か話し声が聞こえたけど、誰か来てるの?」

先輩は混乱したまま立ちつくしたが、彼女がリビングに入っていった。

「誰もいないじゃん。電話してたの?」
そんなはずない。

今まで俺は彼女とここで一緒にいた。
テーブルには2人分の缶ビールと皿がまだ残っている…。

翌日、先輩は友人2人を連れてお祓いに行った。

「おかえり。」

住職は言った。

「あの、ここ初めてなんですが…。」と先輩。

「お前の後ろにいる女に言ったんじゃよ。」

先輩はその日以来、心霊スポットに行くことをやめたそうだ。